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11月「くろのどじょう」

「やっていかないかんのやて!」
夏祭りの2日前。お子さんのお迎えの為、定時に退庁しようとした同僚に放たれた一言。時刻は既に18時を回っており、準備は予定より遅れていた。

この時期になって、過ぎた季節の出来事を不意に思い出したのは、次の行事に向けた準備が始まったからだろうか。

「男は仕事、女は家庭」
そんな風土が形成された社会では、家庭の事情を鑑みずに働ける男性が重宝された。一日の時間の全てを自分の為に使えるということは、全て仕事に費やしても問題がない。その価値観で企業風土が形成されれば「プライベートを犠牲にしてでも、仕事はやって当然」という意識にもなるだろう。

女性の社会進出がニュースになる程だったから、この国の意識は相当なものだっただろう。このこと自体は、ジェンダーによる差別がようやく軽減されたかと、冷笑まじりに話題にされたものだ。最も現在では、障碍者雇用と同じく、単純に人手不足を補うための非正規雇用を含めて横行しているだけなので、単純に喜ばしいことでもない。問題にするべきは、その働きに求められる業務量の設定だ。

9時5時という言葉は、既に死語だろうか。家庭の事情を鑑みずに働けば、そうでない人に比べて作業量が多くなる。仕事にかけられる時間の絶対量が違うので、個々の能力差を考慮したとしても、その差は歴然であろう。そして多くの場合、量の多い方が基準に据えられる。

「女は使えない」という差別が平然と行われたのは、男性には月経がなく、家庭を鑑みる必要も無かった為である。脳科学によれば、物事の捉え方が男性と女性とでは異なるので、仕事に対する姿勢の違いがあり、男性が多く占めた社会では、単に数の違いから、女性が市民権を得られなかった為でもある。

女性の社会進出によって、数の違いは取り払われた。
では、働き易くなっただろうか?

女性の多い職場でまず行われたのは、「女性も男性並に働ける」というアピールだった。

男性と女性では、脳科学のレベルで違いがあると先に述べたが、あろうことか彼女らは、男性の構築した社会のルールで勝負に出たのである。女性自身による、女性性の否定だ。

「プライベートを犠牲にしてでも、仕事はやって当然」

時間外労働の土壌を作ったこの考え方を、彼女らも踏襲してしまったのである。

少子高齢化の原因のように、女性の社会進出が扱われた時期もあったが、実際の原因は、仕事がプライベートより優先されるという価値観に基づく働き方である。

我が国自体、先進国に追いつけ追い越せでやってきて、それが経済大国と呼ばれるまでに成長したのだから、一概に悪いやり方とは言えない。日本人の気質である生真面目さが、それを後押しした面もある。自己犠牲の精神は、なかなか真似できるものではない。

問題は、社員の自己犠牲を基幹として会社の発展を考えたところにある。

言うまでもなく、社会の構成員は人である。そして人は霊長類であり、単為生殖することはない。如何に自己犠牲が尊くとも、生殖が保障されなければ構成員が増えることはない。

近年になってようやく、男性の育児休暇が認められるまでになったが、それでも子どもの為に同僚より先に帰宅することが忌み嫌われる風潮が残っている。何故なら、設定された作業量が、性差を問わず、未だに独身男性を基準に据えられているからだ。

冒頭で叫んだ女性はDINKS(Double Income No Kids:共働き収入、子どもなし)だ。叫ばれた方は核家族で、3人の子どもの母親である。相手の事情を鑑みれば、あのような言葉は出ない筈だが、平時に増して忙しい時期に加え、部署同士の交流が少ない中の共同作業だったから、誤解が爆発したのだろう。しかし、問題の本質はそこではない。

現場の人間にこのような発言を許してしまう風土が、問題視されないことである。

「やって当たり前」という風土で仕事が間に合わなければ「本人の努力不足」とされる。規定の勤務時間を大幅に過ぎる仕事量が課せられているにも関わらず、である。

こうした土壌を浄化するチャンスは、やはり異動の時期だろう。汚染された土壌の中にも、それに染まっていない人間はいるから、彼らと手を組んで声を上げることが最善である。

既に正規の労働基準から大きく外れているのだ。気付いた人間が声を上げる時期を迎えている。

仕事の目的は、今を消費することではない。次の世代を支えることである。

立つ鳥は後を濁さない。
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